基本的にはるーすぼーいテイストに溢れた話となっているので、ファンなら遊んでみるのも良いかもしれません。一方でファンだからこそ期待しすぎるとイマイチな感想を抱いてしまうかも。個人的には『肩に余分な力の入った2002~2005年代のエロゲー同窓会』みたいな作品でした。
とりあえずネタバレMAXで書いてあります。
物語の肝は十代特有の人間模様、異能バトルは建前
まず最初に書いておくと、『ぼくの一人戦争』がやろうとしていたことは好みでした。主人公である蓮司は、ある出来事を切っ掛けとして"会"と呼ばれる儀式・空間に取り込まれてしまう。その影響は蓮司のみならず、彼を慕っている友人達をも巻き込んでいく……という導入は、今となっては懐かしい現代異能感もあってわくわくしました。
この"会"というのは、リーダーである主人公を狙って押し寄せる敵を、友人達が兵士となって迎撃していくタワーディフェンス的な異能バトルなわけなんですが、実のところ、この要素自体はそこまでメインというわけではありません。
"会"をこなしていく中で、主人公がルールを分析したり、友人達が"会"の背景・ペナルティを紐解いたり、といった展開もあるにはあるんですが、メインとなるのは「その出来事を通じて、それぞれが抱える人間関係に対する苦悩と向き合うこと」です。
なので展開自体は『車輪の国、向日葵の少女』のように、一人一人のジレンマを解きほぐし、前向きな気持ちに転換させていく、というるーすぼーい作品らしいものになっています。実際、開始時は蓮司も含めて「登場人物達のキャラがふわっふわしているな」と感じたものなんですが、各ヒロインの本質や生き様を見ていくことで、最終的には全員に愛着を持つことができたので成功していたと思います。
にも関わらず一本道である点は賛否が分かれるかもしれませんが、他のヒロイン達が魅力的に映るからこそ、それでも恋人である「るみ」の為だけに足掻こうとする蓮司の生き方が魅力的になっていると思います。
まぁ"会"という現実から隔離された空間があるわけなんで、ifストーリー的に他ヒロインと一時だけ結ばれても良かった気はしますが、この作品の雰囲気を維持するなら一本道が正解かな。プレイ時間も12~15時間程度と短いですが、あまり長く引っ張る設定でもなかったので、体感的には丁度良かったと思います。
シーン的には良い所も多いが、全体としては惜しい
まあしかし、納得できない箇所が二つほどありまして。
一つは「プロローグの叙述トリックの存在意義」です。
この作品は公式サイトの情報が必要最低限に絞られており、体験版を遊んでみるか、製品版を買ってみるまで内容を把握できないように作られています。その全てはプロローグに仕込まれた叙述トリックの為です。このトリックに関してはよく出来ていたと思うんですが、首を傾げてしまったのは本編には殆ど関わらないということ。
トリックの内容自体は「弟の永治が主人公、と思わせておいて本当は蓮司が主人公だった」というどんでん返しなわけなんですが、本編では基本的にこの永治が関わることがない……。終盤に良い役どころとして活躍はするものの、叙述は別に関係なかったんですよね。
俺はてっきり「蓮司が主人公、と思わせておいて"会"の途中で脱落。視点が再び永治に戻り、皆に嫌われながらも"会"を乗り切り、兄弟の救済に繋がっていく」みたいな展開が待ち受けているとばかり思っていたので、プロローグが単なる"引き"だったことは残念でなりません。
「相手に強い恨みを抱かれていても兵になれる」とか、伏線だと思い込んでいたんですなあ。それでいて蓮司を思うるみとの関係性がどう描かれるのか、とか、妄想が尽きなかった。「ぼくの一人戦争」ってタイトルとかもなあ……。
もちろん「本編への期待度」という意味で、プロローグの巧さは必要だったと思うんですが、あまりにも以降関わってこなかったので「るーすぼーい=叙述シナリオ」というイメージを維持する為、そして体験版でプレイヤーを引き付ける為だけに盛り込んだんじゃないか、と邪推すらしてしまう。
まあクリア後に読み直してみると、巧みに「主人公=永治」というミスリードを起こす工夫がなされているので、そこは素直に感心するところではあります。OPへの入り方も完璧ですし。
んで、もう一つは「物語の締め方」です。
釈然としない部分は幾つかあったものの、蓮司とるみの関係性は琴線に触れたので、概ねラスト直前までは良かったと思います。ただ、肝心の"会"の終わらせ方が雑といいますか、ハッピーエンドではあるものの、"会"に関する情報が不足しすぎていて駆け足感が強い。
一本道だけどトゥルーエンドあるんじゃないのか、と感じてしまう未完結的な足りなさです。
道中の描写である程度は補完できますが、蓮司らの記憶の仕組みや、長門大地との決着に関してはもう少し丁寧に説明してほしかったかな。先も言ったようにボリュームだけなら丁度良かったんで、下手に掘り下げすぎるとテンポ悪くなる可能性もあるんですけどね。
ただ、長門決着までは「これはこれでいいか!」となっていただけに惜しい。
ここで良作に一歩届かなかった印象かな。
もう一周遊んでみて、情報を噛み砕いていけば気付く箇所もあるかもしれませんが、今のところは「昔を懐かしみながら終わるスルメ」のようなゲームです。まあ結花やしのぶが魅力的過ぎるヒロインだったので、しれっと個別ルート追加の続編・FDとか出たら買ってしまうかもしれない……。