2014年12月8日月曜日

『感想:キミのとなりで恋してる!』

 おるごぅるもとい期待の新人ライター「おぅんごぅる」氏が手掛ける今作、小粒ながらにとてもいい作品でした。流石はおるごぅるおぅんごぅる先生だぜ!





 さて、通称「とな恋」なこの作品なんですが、実のところ感想らしい感想を書くのが難しい。公式サイトを見ていただけると解るかと思いますが、最近では珍しくなった「幼なじみを扱った日常物」です。ちなみに俺は幼なじみヒロインが大好きなので、そういう意味ではマストバイだ。
 大まかな話の導入としては以下の通り。

 口を開けば愚痴ばかりだった両親が亡くなり、急遽祖母の頼みで婚約者を探すことになってしまった主人公の秋人。そんな彼の前に二人の幼なじみと一人の先輩が現れる。
 片や性別を意識しない程度には仲の良い快活な性格の莉奈。
 片や幼少期のとある出来事から疎遠となってしまっている生真面目な性格のなぎさ。
 そして、嘗てマラソンのペースメーカーとして名を馳せた秋人の才能を買っているアスリートの知花先輩。
 秋人に襲い掛かる婚約者問題を切っ掛けとして、この三人が彼の選択に関わってくることになる。

 とまぁこういう話なわけです。そしてあくまでもその範囲で終わる話でもあります。
 そして、それこそがとな恋の光っている部分でもあり、個人的に好感触だったポイント。
 先輩でもある知花先輩は少し軸から外れているかもしれませんが、とな恋のメインは幼なじみとの関係性にあると思います。未だ付き合いのある莉奈、疎遠となっているなぎさ、どちらを婚約者として選ぶのか、何故選んだのか、そしてどう変化していくのか、というモラトリアムを扱っているんですな。
 そこに『キミのとなりで恋してる』というタイトルがすとんと落ちてくる。

 もうおるごぅる作品として一括しますが、『死神の接吻は別離の味』『リアル妹がいる大泉くんのばあい』同様、とな恋のプレイ時間は比較的短く、ミドルプライスサイズに収まったコンパクトな作品です。しかし、短いながらもなぎさ、莉奈、知花先輩、それぞれのシナリオには個々のテーマに合った「キミ」と「隣」と「恋」が設定されています。
 各シナリオの「キミ」とは誰なのか、その「隣」とはどういう立ち位置なのか、まさしく幼なじみ物としてはドストレートな題材であり、そういう部分を重苦しく描かず、さらりとテキストに混ぜ込んで進めてくる辺りがとな恋というか、おるごぅるシナリオの肝かもしれないなと感じました。
 こういう普通を普通らしく描くのが一番難しい。今はこういう普通さは少なくなってきましたので(今は今の味があるので、決して悪い意味ではないですよ)、だからこそこういう題材を投擲してきたおるごぅる先生には拍手を送りたいところ。

 あとは若干ネタバレの感想。
 →全員プレイしおえれば解りますが、各シナリオとは別に、主人公を影から支えてきた妹の恵の生き方こそがタイトルの『キミのとなりで恋してる』であるところもグッと来るものがあります。実妹を直接攻略しているわけではないのに、全て終えれば「メインヒロインは恵だったんだ」と納得できてしまうこの説得力。Alcotハニカムでのおるごぅる作品に共通した「クリア後演出」と合わせて堪能してほしいですね。

 そんな感じで、まともな感想にはなってないかもしれませんが、幼なじみとしての立ち位置、を描いたエロゲーとして秀逸なので興味を持った方にはオススメかな。
 前述したようにプレイ時間は比較的短く、オールクリアもそう掛かりません。
 ボリュームを求める人には物足りなく感じる可能性がありますし、シナリオとしても際立って秀でた個所があるかというとそうではないんですよね。なので個人差があるとも思います。
 しかし逆に言えばボリューム・ギミック等、尖ったADVに慣れた熟練層や、最近ADVを最後まで終えられずに積んでしまう人などにオススメしたい原点回帰的な一作だと言えます。そういう箸休め的なADVとして遊んでみるのも良いんじゃないでしょうか。
 それで気に入ったなら『死神の接吻は別離の味』『リアル妹がいる大泉くんのばあい』もセットでどうぞという感じで。