愛着ある作品だと感想が無駄に迸ってしまうので、ひたすら垂れ流しておいた。
さて、今作からライター表記が東ノ助さんのみになっているのが興味深いところですが、東ノ助さんは元々『月に寄りそう乙女の作法』の核と言ってもいいルナ・ユルシュールシナリオを担当されていますし、『乙女理論とその周辺』に至っては全シナリオ書かれているようなので、他の面々がいなくとも作品としてはきっちりつり乙をやっていた、と感じた続編でした。
乙りろのライター表記はつり乙アフターも含めてのものでしたしね。
つり乙自体はBugBugインタビューによると、真紀士さんの持ち込んだ企画・シナリオをベースにしているようですが、後にルート分担制であったことが明らかとなりましたし、その辺のエピソードは十周年記念作品を作る上での仕掛けだったんじゃないか、という気がしないでもないですね。
まぁいつかその辺の話とか語られないかな、と思いつつ、少なくとも乙りろのテキストが楽しめた方で、つり乙シリーズの世界観が好きな方にはオススメな続編だと思います。
文字通り世代交代後の物語
つり乙2とタイトルが付けられているものの、物語の方向性としては前作から大きく変わっています。まぁ主人公である遊星(朝日)から、その息子である才華(朝陽)へと変わっているわけですから、方向性が変わっているのは当然といえば当然かもしれません。
つり乙1は一族において存在を許されない遊星という主人公が、朝日という偽りの立場を通じてフィリア女学院で才能を開花させる、というある種スポ根的な部分が存在しています。特にルナ・ユルシュールシナリオではその傾向が強いですね。
一方、つり乙2では母親であるルナのアルビノ体質が遺伝した、という経緯は存在するものの、才華自体は愛されて育った子供ですし、服飾に限らず才能は表立って開花した状態から始まっています。そういう意味では、服飾に関する障害を乗り越えていく話ではなく、フィリア学院における経験を経て、その才能をどう生かしていくのか、という才華の精神的な部分にスポットが当たった話でした。
成長物語、という意味ではどちらもそうなんですが、つり乙2の方が主人公の色が強かったかな。各ヒロインのシナリオでは、それぞれのヒロインの才能・価値観に影響されて今後どう生きていくか、という傾向がありますし、また違う続編と思っておいた方が良いですね。
その根幹には両親との向き合い方という思春期的な部分もあるので、終わってみると親心目線で才華の成長を見届けるような話だったような。これは1をやっているからこその移入の仕方かなと。衣遠が作中でも口にしている「自分は観測者に過ぎない」という言葉は、そのままプレイヤーにも当てはまるかもなあ、と感じるテイストでした。
他にも具体的な名前こそ明かされないものの、つり乙1・乙りろのキャラクターと、つり乙2のキャラクターの関係性が断片的に仕込まれているのも特徴かな。出身地や年代、会話の内容から「あのキャラと知り合いなのかな?」と妄想できる楽しみもある。
そういう意味では「フルプライスサイズのファンディスク」という見方もできるかもしれないですね。
過去作への愛着必須だが、強すぎるとネックになる可能性も
と、個人的には遊びながら悶えるぐらいには楽しんでしまった一作なんですが、好きな作品だからこそ反動的に物足りなくなる箇所も存在しています。
一番の問題としては、つり乙のルナシナリオのように、性別を越えた主従・恋人関係へ発展していく下りや、それに伴うエンディングへのカタルシスを求め過ぎていると「おや?」となるかもしれないってことですね。前述したように、つり乙2は才華の精神面に重きが置かれている為、シナリオにもよりますが、ヒロイン(との関係性)の掘り下げが不足している箇所があります。
才華だけでなく、ヒロイン達自身も優秀ですし、真の意味での悪人(ラスボス的な立場)が存在しないこともあって、終盤からエンディングまでとんとん拍子で進んでいく傾向があるんですよね。主人公とヒロインが向き合い、どう生きていくかを決めたら、それまで障害と思っていたもの全てが障害ではなくなってしまう。
この辺り求めるものとのギャップかな、って気はします。
「自分達が思うよりも優しい世界だった」ことに気付けるか、が軸になっている気はするので、これはこれで良いんじゃないかな、というのが自分の感想だったりしますが。才華とエストの関係に至っては遊星・ルナとの違いがむしろ面白かったと思いますし、才華の「遊星らしさ、ルナらしさ」は楽しめるはず。
ただルナシナリオは勿論、ユルシュールシナリオのような面白さを求めていた部分があったことも事実なので、やっぱり少し惜しいかな。
あとは過去作のキャラクターの名前を出さない、というのが一部シナリオ(特にエスト)でインパクトを弱めてしまっているかも。各ヒロインのファンを考慮してのことかもしれませんが、公式では「何シナリオの続きかは明言しない」としていても、ルナシナリオの続きであることは明白なわけで。
乙りろのヒロイン陣はともかく、才華の両親である遊星・ルナが回想以外で登場しない、というのはもどかしさばかりが残ります。個人的にこれが一番惜しい部分だった。ルナに関しては海外にいるという説得力があるとはいえ、遊星はシナリオに絡んできていますし、直接登場させた方がエストシナリオのラストはもっと映えたんじゃないでしょうか。
幸い(?)今作のシナリオは何れも「アフター」が描きやすい終わり方をしているので、乙りろ的な続編か、アペンドでのアフターが出るならフォローを期待したいところですね。
結論から言えば「ああ、楽しかった!」
と、惜しい箇所もあるにはあるんですが、個人的には満足な作品でした。
発売からクリアまでほぼぶっ続けで遊んでいたほどです。
元々つり乙1のような続編を期待していたわけではなく、どのように広げてくるかが楽しみだったので十分期待通りの続編になれたかなと。そりゃ幼少期のルナと才華の絡みだけで涙がどうどう流れますわ。いやルナとか言ってるけどもう心ではルナ様なんですよ。ありがとうございます、お優しいルナ様。
あとはつり乙・乙りろに共通していた「メイン以外のシナリオはおまけ」というジンクスが崩れ、全シナリオ一定以上のボリューム・質を保っていたことは大きな変化だと思う。特に西又ヒロインズがどちらも面白かったのは僥倖。前印象ではルミネが一番好きだな、と思っていたらエストが飛びぬけて可愛かったのも嬉しい誤算。
エストシナリオはもっともっと「先の話」が読みたくなるので、アフターとはいわず、エストシナリオ後の続編とか出してほしい。別に一本道でもええんやで。
あ、ルナアフターアフターに関しては良くも悪くも安定の内容でした。
乙りろの展開をルナシナリオでも起こったことにする為に、解説が大半を占める内容ではあったけど、「そういう形で纏めてきたかー」という感じで。ただその為にりそなが若干割を食う人生になってしまったのが何とも難しい話。
しかし終えてみると「ああ、楽しかった!」だなあと。色々な感想はありそうですが、この内容ならもう一作ぐらいつり乙で何か出してほしい気はしますね。流石に五作目とかになるとネタが厳しそうですけども。
とりあえず、またエストシナリオリプレイしたくなってきたぞ。