十一月現在だと今年度トップクラスの面白さじゃないでしょうか。
まだまだ期待作が控えているとはいえ、久々に心打たれるシナリオ構成でした。
春以降は正直不作かな、と思っていたんですが、中々どうしてこういうサプライズがあるからエロゲーは止められない。というわけで感想をば。
概要
現代よりも技術が発展し、ロケット開発が教科・部活動として浸透した少し先の未来。
天ノ島に存在するロケット専門の学校「天ノ島学園」で、廃部の危機に晒されている部活があった。
その名は「ビャッコ」。
部長である"暁有佐"と、ロケットをこよなく愛する"伊吹那津奈"に、奇妙な偶然から有佐と出会い、ビャッコへ入部することとなった主人公"隼乙矢"の三人しかいないロケット部だ。
ビャッコの廃部を阻止する為に委員会が提示してきた条件は二つ。
一つは部員をあと二人集め、規定の部員数である五人を満たすこと。
そしてもう一つは、二学期が終わるまでにロケット大会に出場し、一度でも優勝すること。
それが叶わなかった場合、ビャッコは即座に廃部となり、所有している施設は学園トップクラスのエリート集団であるロケット部「ARC」の所有物となってしまう。
弱小であるビャッコがこの条件を満たせる確率は限りなく低い。
しかし、それでもと、乙矢達はビャッコを存続させるべく頭を捻らせることになるが――。
展開は実に王道な部活青春物、架空設定が逆転への説得力になる
物語の流れは極めてオーソドックスな部活物だったと思います。
弱小ロケット部が廃部を阻止するべく奔走し、主人公というイレギュラーを起爆剤に挫折と試行錯誤を繰り返しながら結果へ結んでいく。取り扱っている題材がロケット開発というだけで、概ねノリはスポ根に通じていると思います。
今作の秀逸だった点は、その「ロケット開発」の知識を解りやすくシナリオに落とし込んだことでしょうか。まず主人公である乙矢は体育会系の人間であり、ロケットの事など何一つ知らない素人、という点からスタートしています。つまり専門知識がないという意味ではプレイヤーと同じ視点にあるわけです。一方、ビャッコの仲間であるヒロイン達は元々ロケットに関わっている分、それぞれ得意分野と才能を持った経験者となる。
つまり知識のない主人公に対して、ヒロイン達が教師役となって解りやすくロケットの基礎を教えてくれるシナリオになっているんですよね。プレイヤーもこれによって程良い薀蓄に触れながら話を読み進めることができる。
無論、主人公もただの無知では終わりません。知識を積み重ねながら、主人公だからこそ辿りつける閃き・アイデアによって、ヒロイン達のスランプを解決していきます。脳筋的な性格ではありますが、どれだけシリアスな展開になっても「この主人公なら何とかしてくれるだろう」という安心感と、それに見合った逆転のカタルシスのコンボは止め時を見失いますね。
また、TIPS形式の辞典も存在しているので、専門用語を使った正確な解説はそちらで補完することができるのも好印象。
部活シーンにおいても「現在よりもスムーズなロケット開発技術が生まれた」という架空設定が下敷きになっているんですが、だからこそ「作中ではもはや主流となっていない方法=過去に実在した技術」を主人公達が調べあげていくことで、盲点を突いた解決案を編み出していけるんですな。
これのおかげでSFになりすぎず、「少し先の未来」という程良いリアリティを維持してるんですよね。拘る人もいるでしょうが、個人的にはベストなバランスだったと思っています。
各ヒロインのルートに意味があり……(ネタバレ)
今作のヒロイン達はそれぞれ得意分野を持っています。
電装担当の夏帆、機体担当のほのか、エンジン担当の那津奈に、全員を纏め上げるPM担当の有佐。基本的にルート分岐は「主人公が誰のサポートに付くか」で決まるわけなんですが、これがそのままシナリオの意図にも繋がっていたんですよね。これが巧い。
担当部分で壁にぶつかり、試行錯誤を繰り返しながら、やがて結果へと繋がっていく。そして各ヒロインの得意分野が、そのまま彼女達がロケットに拘るバックボーンにもなっている。どのヒロインのシナリオにも外れはなく、個々に愛着を持てるからこそ周回が輝く構成になっています。
極めつけは全ルートを終えると開放される完結編の存在。
このシナリオは個別ルートとは異なり、「主人公が全員のサポートに付き、全てが巧く回るもう一つのルート」として描かれています。文字通りグランドシナリオという奴ですな。基本個別ルートは「主人公が担当した部門はいい結果を出すが、他はトップには立てなかった」という結果で終わるので、だからこそこの完結編の存在は大きい。
全部門で優秀な結果を出し、弱小ロケット部というレッテルを払拭したビャッコの姿を見ることができます。個人的にこういうシナリオロック的なギミックが好きなので、それだけでもう感無量という感じでしたね。後味も良く、クリア後に余韻に浸らせてくれる優秀なゲームだったと思います。
しいていうなら、PM担当である有佐ルートで「全員のサポートをする」という流れに持っていき、エピローグとして完結編が始まる流れでも良かったような気はします。完結編は何れのヒロインとも結ばれていない体で続きますが、ED的にも流れ的にも有佐と結ばれるんだろうな、という感じはしましたし、有佐ルートの内容的にもその方が据わりは良かったような。この辺は好みですかね。
システム部分はやや惜しい
シナリオは秀逸だった反面、システムに関しては惜しい部分も見られたかな。
細かな操作性(TIPSとゲーム画面の切替がスムーズではない)にも粗があるんですが、一番首を傾げたのはスキップが既読であってもぶつ切れで解除されてしまうこと。
恐らくシナリオはシーン単位で管理されていて、シーンが終了すると強制的にスキップが解除されるようになってるんだと思います。ただ、この区切りがやたら細かく設けられていまして、正直なところ既読スキップにして放置ができない。
一応シーン単位でのスキップもできるんですが、小刻みに切り替わるせいで周回としてはやはり手間がかかるんですよね。既読スキップよりはマシなんですが、今どきのADVとしてはテンポが悪かった。この辺はパッチが来てほしいところです。
総括
ともあれ大満足な代物でした。
攻略は誰からでも良いと思いますが、ほのか→夏帆→那津奈→有佐が自然かな。
定期的に主人公達には難題が突き付けられますが、細かく描写するところは描写し、冗長になるであろう部分はザックリと飛ばしてくれたりと、全体を通してストレス無く読み進められるボリュームです。何か青春ADVをやりたい、という時には是非とも『あの晴れわたる空より高く』を遊んでみてほしいかな。
やっぱりスタッフロールを見ながら清々しく終われるシナリオって大事だなあと思いました。