このブランドを語る上で、
原画:さえき北都 シナリオ:日野亘、衆堂ジョオ
のトリオ(敬称略)は欠かせないと、個人的には思っています。
『るいは智を呼ぶ』『コミュ -黒い竜と優しい王国-』『‘&’ -空の向こうで咲きますように-』
を手掛けたメインスタッフ陣であり、ハロー・レディもこの面々による新作です。
良くも悪くも癖のあるテキストで導入を展開し、様々な角度から盛り込まれた"異能設定"の下、個性的なキャラクター達を群像劇的に描いていく。つまり、今となっては逆に珍しくなってしまった"現代異能物"を徹底しており、それこそがこの面子の持ち味になっているとも言えるでしょう。
ハロー・レディも存分にそのテイストが活かされています。
つまり三月の当たり作なので皆買おう。
感想も書いておきましたが、何分ネタバレ色が強いのでご注意を。
概要
優れた人材を登用し、厳重なセキュリティと充実した施設の下、閉ざされた学園で"才能"の活かし方を学ばせる"天河ノーブル・スクール"。その生徒達の中でも、頂点に立つ五人の少女達は〈クラウン〉と称され、スクールが目指す先導者〈ノーブル〉に近き者として、学園の統治を任されていた。
そんな中、ふとした事を切っ掛けに〈クラウン〉の一人である"音無朔"がテロリストに襲撃を受ける。それは、スクールが抱える"才能"を恐れ、化物として駆逐せんとする武装組織"アンチ・ハロー・メン"によるものだった。
それを救ったのは、中国武術にも似た中東秘伝の体術を駆使する男"成田真理"。
彼は〈スクール〉への入学が決まった編入生であり、〈クラウン〉として認定された初の男子でもあった。
かくして、奇怪な転校生と共に新たな学園生活が幕を開ける。
徹底したブラフが輝いた一作
公式サイトを見てもらえると解るんですが、事前情報だけだと"上流階級の学校を舞台とする貴族物ADV"に感じると思うんですよね。実はこの第一印象が鍵になっていまして、実態は〈スクール〉関係者によって家族を殺された主人公が、仇を討つ為に〈クラウン〉として潜入する現代異能復讐劇となっています。
舞台となる〈スクール〉は、HMIと呼ばれる異能者達を集めた秘匿性の高い教育機関であり、頂点たる〈クラウン〉、つまりヒロイン達はその中でも優れた異能を持ったエリートとなります。主人公はヒロイン達と接し、表向きは生徒として過ごしながら、水面下では四人の仇を殺していく、というのが主な話の流れです。
これらの真実は段階的に明かされていき、共通ルート終了に伴って主人公の目的も明確化していきます。共通ルートは体験版に収録されているので、そちらを遊んでもらえれば確認できるのですが、今回は体験版を遊ばずに製品版に入った為、いい意味で虚を突かれた作品でした。特に公式サイトオープン時、軽く閲覧して「今回は学園物か……」と購入を悩んでいた身としてはしてやられた……ッ!
今回は主人公が超人かつ尊大で乳好きのド変態という、個性的過ぎるキャラ付けだったので、その様をヘラヘラと楽しんでいたら、まさかのどんでん返しで膝を叩いてしまいましたよ。いやあ、こういう作品があるからADVはやめられない。奇怪な言動で周囲を惑わしつつ、そういった描写の全てが目的へと繋がっていくケレン味は、るーすぼーい作品を彷彿とさせますな。
個別ルートとはどうあるべきか
さて、ハロー・レディの構成部分。
主人公が転入し、ヒロイン達との生活を描き、第一の復讐が果たされるまでが共通ルート。
そこからは選択肢で加算されたポイントに応じて、ヒロイン達との個別ルート(四つ)・バッドエンド(六つ)に分岐していく形になっています。
いわゆるルートにロックが掛かっている仕様でして、珠緒・空子→エル→朔という順番に攻略することができます。珠緒・空子・エルのルートには、それぞれ伏線と解答の一部が仕込まれ、最終的に朔ルートで全ての謎が解けてからのグランドエンドに繋がっていく、という構造ですね。
とりあえずシナリオはすげー面白かったです。
個別ルートが果たしている役割も納得がいきますし、伏線も綺麗に回収されて、朔ルートでは(概ね)後味の良い結末を迎えてくれます。乙女理論以来の熱中したADVでした。
ただ、一つだけ問題点というか、納得できていない部分もあります。朔以外と恋愛関係になる必要がないんですよね、このゲーム。
成田真理という主人公の個性で誤魔化せてはいるものの、珠緒・空子・エル、何れのルートも恋人関係になる動機が希薄かつ唐突です。この三人は、どちらかといえば戦友的なポジションが近く、結ばれずに共闘して終わっても良かったんじゃないかな、という違和感が最後まで続きます。正直締め方も突飛すぎて首を傾げてしまうんですが、この辺も恋愛要素が無ければストレートに解決できていた気がする。
そういう時はエロゲ需要的な部分はExtraなり特典ディスクなり、おまけ的な部分で補完しておくぐらいでいいんじゃないかなあ……。
と、口にすることは簡単ですが、実際にそんなことをしたら賛否が分かれるのは間違いない。
なので、やむを得ず恋愛要素を落とし込んだんじゃないかなあ、という気がしています。この辺りは"個別ルート=そのヒロインとのHシーンがないといけない"みたいな、エロゲーの宿命が付き纏っているのかな。
攻略とは、個別ルートとは一体……ウゴゴゴゴゴ。
あ、でもその欠点を呑みこめるだけの面白さは秘めていますので、悪しからず。
しいていうなら惜しい部分ですね。
あくまでも復讐劇を貫いたこと
んで一番好ましかったのが復讐劇として始まり、復讐劇として終わってくれたところですね。
復讐劇って題材としては盛り上がるんですが、扱いが難しいと思うんですよ。度々議論に挙がるテーマだと思いますが、"復讐は何も生まれない!"的に説得されるケースは敵味方関係なく多いですし、それが良いのか悪いのか、という考え一つでも論争が起こります。
個人的には、主人公が復讐を行う場合は、可能な限り貫徹してほしいスタンスです。
復讐しようと至るまでの過程や心情を考えると、結果的にどのように終わるにしても、復讐自体はプロセスとして完結させた方が締まると思うんですよね。
ハロー・レディはその辺の波長があってまして、"終わらせるための復讐"ではなく"人生を新たに始めるための復讐"として、最後まで意志を捨てなかった点がグッときました。もちろんルートによっては、本人の意志ではなく、状況的に復讐できないパターンもあるんですが、ラストである朔ルートではキッチリ復讐を終えていたのが良かった。
遊んでいる最中、周りから説得されて復讐止めたらどうしようと懸念していたので尚更ですかね。
復讐を自己満足として肯定し、仇の親類縁者に対して罪悪感を抱く、己の偽善を認めた上で、それでも殺すという生き方を貫いた成田真理は格好良い。
そう思える後味になっていました。
この辺の"復讐の描き方"は、日野さん達なりの解答なんだろうなあ、と思っています。
そういう意味でも遊んで良かったと思える作品でしたね。
……とはいえ(暁WORKSとしての)一作目ともいえる『るいは智を呼ぶ』のハードルは高いなあ。評価は色々あると思いますが、俺の中ではるい智>ハロレ>コミュ>&でした。次回作も楽しみですね。